Corne Keyboardをつくった話
こんにちは id:foostan です。
この記事は 自作キーボード Advent Calendar 2018 - Adventar 20日目です。
昨日は id:eucalyn さんの よりPCと仲良くなるために - ゆかりメモ でした。
机から自作するとは、PCに対する愛を感じます!
さて本記事では、Corne Keyboard をつくった理由や、反響、今後について少々踏み込んでご紹介していきます。 今後キーボードを設計したり、それを販売する方にとって参考になると幸いです。
自作キーボードをはじめたきっかけは "Let's Split"
きっかけはTwitterに流れてきたLet's Splitを見て一目惚れしたためです。 それまではHHKB Professional2を6年ほど愛用しており、特に不満もなかったのですが、そのキーボードを見てとてもワクワクして中国からパーツを集めて組み立てました。 自分でキーボードを作って果たしてちゃんと動くのだろうかという思いもありましたが、社内にどっぷり沼に浸かった方がいたので安心でした。
Let's Splitについてはビルドログを公開しています。
今見るとあまりいい出来とは言い難いですが、久々のはんだ付け、格子状に敷き詰まったキースイッチ、実際にちゃんと動いたときの喜びなどとても満足感が高かったです。
キーボードを設計しようと思ったきっかけは "Helix"
Let's Splitをつくったらもうひとつ、つくりたくなっていて、そんなときに日本の方が設計したキーボードのGB(共同購入)が開始されると聞き、 どういうキーボードかな?と興味津々で見ていました。
ロープロ対応のスプリットキーボードのGBを12月辺りに予定しています。おおよその参加人数を知りたいので、希望される方は「参加希望」とコメントして下さい。キャンセル可なのでお気軽に😃 (画像は製作途中のものです)#Helix開発 pic.twitter.com/wRAV9tV1eM
— ないん (@pluis9) 2017年11月18日
格子配列の分離型だったのでLet's Splitと似た見た目でしたが、圧倒的に '薄い'。Let's Splitは本体が厚くとても不満に思っていたので、この薄さは衝撃的でした。 またその薄さを実現するためにProMicroをキーの下ではなく端に寄せているのですが、その上にサイズピッタリのOLEDディスプレイを置くという理にかなった構成になっていて、ひと目見て欲しくなりました。
届きました!感謝! #Helix祭り pic.twitter.com/vdzuYyz6EE
— コルネはパン (@foostan) 2018年2月14日
LEDの実装に多少挫折しながらもなんとか完成させたHelixは非常に満足のいくものでしたし、キーボードにLEDなんて中2っぽくて嫌だなという考えが一蹴されて、そこから光るキーボードにハマっていきました。 ただ、Helixのキットが届く前にIrisを作って使っていたのですが、Let's SplitやHelixのような格子配列よりも、Column Staggeredの使いやすさに惹かれていました。
Helixの完成度が高いと思いつつもIrisの使いやすさを知ってしまったので、さてどうしようと思ったときに自分の手に合うキーボードは世の中に存在しませんでした。 ないものは自分で作ればいいかという発想に至るのですが、電子回路の知識はあまりないし、基版の設計なんかもやったこともない状態でした。
そこでHelixですが、これがすごいのはなんとMITライセンスでデータが公開されているわけです。 KiCadをダウンロードして「ことはじめ」を一通り終えたあとに実際にHelixのデータを見て、なるほどよくわからんけど、とりあえずキー配置だけ変えれば自分好みのものができそうだなと思いました。
これがCorne Keyboard につながっていくわけです。 なお、Helixに限らずKiCadで設計されたキーボードの多くはMITかそれ相当のライセンスで公開されているものが多いです。 このような恩恵を返すという意味も込めてCorne Keyboardは新作も含めてすべてMITライセンスで公開しています。
Corne Keyboard の設計思想
Let's Split、Iris、Helixを使ってみてこうしたいな、という考えはいくつか思いついて
- 片側 6x3 キー + 親指3キーで十分
- 本体が薄ければ薄いほど使いやすい
- 上から見たときにキーだけが見える(プレートが見えない)状態がかっこいい
- Column Staggered じゃないとだめ
- 親指が使いやすい配置にしたい
等々です。これらを実現しようと考えたとき、HelixとMiniDoxを足して2で割ったものを作ればいいかな、というところに落ち着きました。 ちなみにHelix+MiniDoxという特徴を推してしまった結果、海外勢からは 'HeliDox' なんて呼称されるようになって、それはそれで一悶着あったのですが今は落ち着いています(海外で販売している方と認識合わせをしたのでOK)。
Irisから数字列を除いて、親指キーの位置を調整し、ProMicroを端に追い出して薄くする。MiniDox相当なキー数にできるように左端は切り離し可能。Helixに大きく影響されたけどだいたいこんな感じかな。 pic.twitter.com/aUMG5iv1G7
— コルネはパン (@foostan) 2018年2月25日
モック作ってみた。親指キーはこれで悪くなさそう。もう少し下に下げた方がいいかもしれないが。 pic.twitter.com/0X6wQejjyD
— コルネはパン (@foostan) 2018年3月1日
できた。Elecrowの発注用にzipまとめるところまでやったけど、先にケースの設計して一緒に注文しよう。 pic.twitter.com/OwxJ8B4YFJ
— コルネはパン (@foostan) 2018年3月18日
設計したPCBを発注して、実物が手に届き、キーボードとしてちゃんと動いたときはすごく感動したのを覚えています。 普段仕事ではソフトウェアしか扱ってないので、物理的な物をつくるのはいい体験だなーと感じています。 最高の体験が得られるので興味のある方は是非自分で設計して発注することをおすすめします。
いい感じだ! pic.twitter.com/yImPsklLJB
— コルネはパン (@foostan) 2018年4月11日
う、動いてるー pic.twitter.com/ikMwv30hze
— コルネはパン (@foostan) 2018年4月13日
なお、この頃はまだ販売するということは具体的には考えておらず、それを意識するようになったのは5月に開催された Tokyo MecanicalKeyboard meetupです。
設置しました #tokyomk4 pic.twitter.com/Q4beu6JaX5
— コルネはパン (@foostan) 2018年5月6日
ここで初めて現物をお披露目した結果、多くの方に興味を持っていただき、「販売しないんですか?」という声をありがたいことに多く頂きました。
はじめてのキット販売
販売することを意識するようになってからプロトタイプ版をいくつかつくったり、事務的な話では開業届をだしたりしていろいろ整えていったのですが、いままで物を作って売るということをしたことがなかったので、最初は何が何だかわからずにがむしゃらに動いていた気がします。
パーツはどこから仕入れるべきか、販売価格はいくらにするか、初回は何個用意すればいいか?、配送方法は?送料の決め方は?など考えても考えてもなかなか固まらず苦労しました。
数えて袋に詰めるだけの簡単なお仕事です。 pic.twitter.com/C2rc4cnaTl
— コルネはパン (@foostan) 2018年6月4日
これは!! pic.twitter.com/XkpYS6kEfC
— コルネはパン (@foostan) 2018年6月6日
こ、これは pic.twitter.com/mOTpMfBdQS
— コルネはパン (@foostan) 2018年6月7日
最終的には初回販売分は50セット、キットの内容はProMicroなどを含まない最低限のパーツで6800円という値段設定をしました。 販売はBOOTHで行い、発送はクリックポストで落ち着き、販売のアナウンスをしたのが6月中旬頃でした。
#crkbd BOOTH にて公開しました。よろしくお願いします! / Crkbd(コルネ) DIY キーボードキット | Pastry Keyboard https://t.co/GDKiMr7y2W #booth_pm pic.twitter.com/zCCW6Vvpy3
— コルネはパン (@foostan) 2018年6月14日
40%キーボードだし正直そこまで買う人もいないだろうと思っていて、半分ぐらい売れれば原材料分の原価が回収できるのでそれでいいかなという感じでした。 が、50セットが30分で売り切れました。
なんでこんなに売れるの!?というのが純粋な感想です。 改めて国内で自作キーボードがすごい流行っているんだなというのを認識しました。
Corne Keyboardの改良
ロゴの発注
50セットの販売を2回ほど終えたあたりで、さらに改良したいなと思うようになりました。 また、個人的にやりたいと思っていたのがロゴの制作とステッカーの発注だったので、そのあたりもやってみようと考え始めました。
当初は自分でロゴを考えたりもしたのですが、全然しっくりこなくて結局頼ったのが 99designs というサービスでした。
Hashicorpのロゴや、知り合いのOSSのロゴなどが 99designs 経由で制作されたものということをもともと知っていたので、ある程度信頼性があるサービスなんだろうとざっくりと認識していたので、 とりあえず頼んでみるか、という軽い気持ちで募集を開始しました。 そして、結果的に自分のイメージにあったロゴができあがりとても満足でした。
これをもとにステッカーを作ろうと思って、どこかいいところないかなと思っているところに、id:htomine さんから教えてもらった stickermule を使うことにしました。 サービス名自体は知らなかったのですが、それがGitHubやDocker、Twitterなどのステッカーを作っているところだと知り、他と比較することなくすぐに決めて発注しました。
これも実際に届いたものを見たときは感動しました。
利用例。これはいいぞ pic.twitter.com/AaZSqZOv2V
— コルネはパン (@foostan) 2018年8月26日
ソケット対応
改良するにあたり大きく方針を変えたのが「ソケット対応」です。 今までのPCBはHelixのキースイッチのフットプリントをそのまま使っていたため
- CherryMX系
- ALPS系
- Choc(Kailh low profile)
に対応していました。ソケット対応するとこの互換性を失うことになります。 キットを購入して頂いた方の実装例を見ると、CherryMX系を使っている方が多かったのですが、Chocの方も一定数いたので悩みどころでした(ちなみにALPS系の実装例は把握している限り海外の方で一人のみ)。 そこで下記のようにバリエーションを増やすことにしました。
- Corne Cherry: CherryMXソケットに対応
- Corne Chocolate: Chocソケットに対応
- Corne Classic: 従来の互換性の高いもの
プレート問題
ソケット対応するとキーが取り外せるようになるわけですが、今まで使っていたアクリルのトッププレートだと、キースイッチのホールド力が弱く、キーキャップを外そうとするとスイッチごと外れてしまいます。 頻繁にスイッチを交換するならこれはこれでいいのですが、キーボードを落としたときとかカバンから取り出すときにもスイッチが外れてしまうので、このままではだめだなと感じました。
キースイッチのホールド力についてはプレートの厚さと穴の大きさが関係してきます。 CherryMX系のスイッチにはプレートに引っかかる爪があり、これがプレート厚1.5mm以内であればしっかり引っかかるようになります。 ただしアクリルは薄くて2mmが限界でこの爪に引っ掛けることができません。 また穴の大きさは14mmが一般的ですが、アクリルの場合は13.85mmぐらいまでは狭めることができてホールド力が増しますが、そこまで効果は大きくありません。
そこでPCBでトッププレートを作ることにしました。海外のキットでも採用例があり、国内であればFortitude60ですでに採用されていました。 PCBプレートは一般的には1.6mmなのでしっかりとはスイッチの爪に引っかからないのですが、PCBの素材(FR-4)の硬さも相まってしっかりとはまります。
アクリルだとこんな感じ(5pin)。好みはあると思うけど物として売るならしっかりしてる方がいいと思ったのでキットはPCBのプレートにしています。 pic.twitter.com/xiFkGbTT8c
— コルネはパン (@foostan) 2018年9月20日
見た目もアクリルとはまた違った印象になり、これはこれで良いと判断しました。
アクリルやめていいかな? pic.twitter.com/6dQPDFmrOI
— コルネはパン (@foostan) 2018年9月8日
Corne Cherry 試作機できた。アクリルじゃないので無骨な感じするけどこれはこれで良い #crkbd pic.twitter.com/bL1u0CCujZ
— コルネはパン (@foostan) 2018年9月12日
なお今後PCBでプレートを作る方に注意して頂きたいのですが、穴の大きさは14mmを強く推奨します。 最初13.85mmにしていたのですが、レジストがMatte Blackの場合、KailhやCherryのスイッチをはめるときにかなりの力が要するようになってしまいました。 なぜMatte Blackのみかはわかりませんがおそらく製造工程の違い?によるものだと思います。なおGateronだと大して問題になりません。
技術書典5
Corne Cherry の初お披露目は技術書典5でした。またこれまでのノウハウをまとめた「自作キーボード設計入門」を出しました。
#技術書典5 での頒布物についてまとめました。自作キーボード設計入門書とホットスワップに対応した #crkbd の新作 Corne Cherry を販売します! https://t.co/7fgCTmvXWf pic.twitter.com/JpMVldgofY
— コルネはパン (@foostan) 2018年10月2日
当日の様子はこちらにまとめてあります。
どちらもありがたいことに好評で、Corne Cherryのキットは50セットが30分で完売、書籍の方は200冊が終了1時間前あたりで完売となりました。 キットの方はもっと用意したかったのですが、執筆作業の時間もあり個人で用意するには50セットがやっとでした。
天キー
天キーでは @Pekaso さんと合同で出店し、アウトレット品を販売しました。 主に試作で試したアクリルの組み合わせや、試作の完成品などを出しました。
#天キー 「自キアウトレット六本木」にて、#crkbd のアウトレット品を販売します。完成品、試作のアクリル/PCB等、通常の販売は行わないものを中心に出します。また天キーの翌日に https://t.co/GDKiMr7y2W にて Corne Cherryの受付を開始します。こちらは6種類のバリエーションを用意しています。 pic.twitter.com/Xa5JjABikq
— コルネはパン (@foostan) 2018年10月31日
また個人的に嬉しかったのは「それはそう」の公開収録にパネリストとして参加させて頂いたことです。 設計や販売に関する苦労話を共有できてよかったです。
それはそう — Season 2: Keybords Ep. 4 天キー 公開収録...
BOOTHで再販
天キーの翌日の11/4にBOOTHにてCorne Cherryの販売を開始しました。 BOOTHの在庫を復活させるのは約4ヶ月ぶりでした。
Corne Cherry の販売を開始しました。宜しくおねがいします! https://t.co/GDKiMr7y2W #crkbd
— コルネはパン (@foostan) 2018年11月4日
ここでは以下の6つのバリエーションを出しました。
- PCB:パープル x ボトムプレート:パープル(PCB素材)
- PCB:パープル x ボトムプレート:クリア(アクリル)
- PCB:マットブラック x ボトムプレート:マットブラック(PCB素材)
- PCB:マットブラック x ボトムプレート:グレースモーク(アクリル)
- PCB:ホワイト x ボトムプレート:ホワイト(PCB素材)
- PCB:ホワイト x ボトムプレート:クリア(アクリル)
それぞれ約20個ずつ販売しましたが、マットブラックxグレースモークの人気が高くすぐに売り切れとなってしまいました。 その他の売れ行きは横ばいでしたが、多少多めの在庫があったホワイトxクリアが1ヶ月ほど保ちました。 また11月末ごろにはひよこさんのお店での取扱がはじまり、以後は委託販売に切り替えました。
今後
遊舎工房での販売が決定!
Corne Keyboardについてはひよこさんに委託販売をお願いしていましたが、ひよこさんは遊舎工房の中の人になったので、Corne Keyboardの委託販売先も遊舎工房さんとなります。 なおご存知の方は多いと思いますが、遊舎工房の実店舗が2019年1月13日(日)にオープンします!
皆が待ち望んでいた自作キーボード専門店がこんなにも早くオープンするなんて夢のようですね。 そしてCorne Keyboardもこの実店舗および、オンラインストアに並ぶことが決定しました!
また「自作キーボード設計入門」もこの実店舗に並ぶことが決定しています!
Corne Chocolate
Corne Chocolateがほぼ完成しました。 こちらも1月から販売できるといいなと思っています。
Corne Chocolate の試作版です。ロープロのソケット対応版になります。#crkbd pic.twitter.com/kLqOfdpKFc
— コルネはパン (@foostan) 2018年12月7日
ソケット化したのでロープロスイッチ試す環境としては最適ですね。 pic.twitter.com/gXe1bh35nd
— コルネはパン (@foostan) 2018年12月8日
ちなみにChoc用のKailhのキーキャップを使用するとピッチを19mmより狭めることができ、よりコンパクトなキーボードを設計することができるのですが、 @monksoffunkJP さん設計のキーキャップのほうが個人的には理想に近かったので19mmのままにしています。
イージー版
まだまだ構想段階ではありますが、組み立てが簡単なCorne Keyboardを設計しようと思っています。 現在のCorne Cherryは表面実装タイプのダイオード限定で、LEDは鬼難易度で、ソケットは剥がれる危険性もあるなど、未経験者にとっては躓く点が多いと認識しています。 今よりももっと多くの方に使って頂きたいと思うのと、完成したときの喜びを体感してもらいたいのでイージー版を検討しています。
Modulo対応
あとは Modulo対応はやっていきたいです。 Discordの方でもかなり盛り上がっているので来年はModuloが熱いです。
完全新作
まだ全然考えがまとまっていないですが、いくつか新作は出していきたいと思っています。 2Dはやっていきますが、3Dもやっていきたいなと考えているところです。
さいごに
自作キーボードにハマり始めておおよそ1年ほどですが、自キ界隈の勢いもあり個人的には怒涛の1年となりました。 1年前はまさか自分がキーボードを設計するとは考えもしなかったですし、それを多くの方に買ってもらえるとも思っていませんでした。 ご購入して頂いた方、またデータから発注して頂いた方、Corne Keyboardをつくって使って頂き本当に感謝しています。ありがとうございます。
2019年も界隈を盛り上げていきたいと思っているので今後ともよろしくお願いします。 あ、あとなんとなく「パンを焼きたい」と思っています。
分割キーボード、間にコーヒー置けるから好き pic.twitter.com/HWFuutuuKz
— コルネはパン (@foostan) 2018年8月8日
さて、明日はいよいよ円盤さんの登場です。お楽しみに!
この記事はCorne Cherry beta + Cherry Silver + ENJOYPBT 9009 KEYCAPSで書きました。